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solipsistic blog

世の厭わしげなる様を 憂えざるべからず

人情ジェットコースター

 人情ジェットコースター——
 アタシやあ、TVドラマ『特捜最前線』をかう呼んで居りまして、これがまた好きなんですなあ。お若い方はもう知らないのでしょうけど、アタシの世代は長寿番組で長いこと人気がありました。本放送(水曜の暮四つ)がやっているのにアタシの郷里では古い回を毎朝再放送していたようにも記憶してるんですが、一寸(ちよつと)頭もあいまいで、まあソレ程人気があつたツてワケです。
 あのドラマには「人間の定理」つてもんが沢山詰め込まれてましてなあ。「親子の定理」「男と女の定理」「夫婦の定理」「家族の定理」「警察(捕まえる側)の定理」「犯罪(捕まる側)の定理」「贖罪の定理」「業の定理」などなど、江戸時代から昭和五十年代ぐらいまで日本人が培ってきた、誰もが共感できるやうな強固な定理がドラマ化されてるんですな。だから泣かされる。何度見ても、あのドラマつて奴あ、アタシを泣かせるわけです。全きひでえ奴。
 「人間の定理」つてのは畢竟、人情つてことですよ。人情つてのは泣かせる人情だけじゃなくて、人間の業もまた人情なんでサアね。「人間は良いこともするし、悪いこともする」つていう池波正太郎先生の鬼平のセリフは、あれは人情を指してるんですな。情つてのは「ナサケ」じやあなくて「オモムキ」「様子(サマ)」、つまりは「人間のオモムキ」つて意味。「義理と人情、秤にかけりヤアあ」なんて唄ありますが、「人情を捨て義理に生きるも、また人情なり」つてえことです。
 番組枠はたったハントキ(一時間)で、尚且つ一話完結。だからまるで人情ジェットコースターに乗っているように、ハイテンション・ハイスピードの展開が続いて、そして最後あの有名なエピローグで一気に急停車します。

 ♪ほぉしぃ〜の ゆぅれぇ〜る みぃ〜なぁ〜とぉお〜〜

 これ作曲はエンドロールにもありますけど木下忠治さん。特捜自体の音楽も木下さんですな。木下さんは大東亜戦争のさなか『陸軍』という映画を撮つた監督の弟さんです。弟さんなんて偉そうに書いてしまいましたが、今年の四月で百歳を迎えられてご存命でいらつしやるようです。

 ところで『特捜最前線』で表現された人情……。
 全く消えてなくなつてしまいましたなあ。

 

 東映や 昭和は遠くになりにけり
 日本は遠くになりにけり 嗚呼、人間は遠くになりにけり


記 志ん歩